Pathos
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2021.07
2020年度の税収の発表には驚いた。財務省からの発表によれば、2020年度の税収実績は60.8兆円と過去最高を更新し、前年比では4.1%の増加だったというのだ。つまり企業の利益は大幅に増加したのだ。
コロナ禍で経済が大打撃を受ける中で、税収が伸びることが不思議としか言いようがないのだが、いったい何が起きているのか。この税収増をみると、日本経済、本当は好調なのではないかと判断してもおかしくないのだが、1年前のコロナ禍の始まりの頃は、「リーマンショック以上の大不況になる」という専門家もいた。それが、特別定額給付金など、巨大な財政出動の要因にもなった。
この結果には、愕然とした人も多かったのではないか。街から人が消え、自分たちの商売の先行きも見えず、明らかに沈滞ムードが漂っているにもかかわらず、税収がなんと4%も増えたというのだから。
財務省の四半期ごとの数字を見ると、とくかく2020年度の第4四半期の伸びがすさまじい。製造業の平成3年1~3月期は、なんと、前年同期比63.2%の超大幅アプだ。おそらく中国、アメリカ向けの輸出の好調だと思われるが、ありえないほどの伸びとなり、国の予想をはるかに上回る結果となった。少し前の財務省の税収見通しは、8兆円と2019年度に対して大きく落ち込むことを予想していた。
それでも、売上と利益のアンバランス感はぬぐえない。2020年度の名目GDPは536.3兆円と前年比▲3.9%で、かなりの落ち込みにもかかわらず、収益は上がったのだ。
税収の増加分は消費税のアップによるとも言われている。2020年度の消費税収は21兆円、2019年度からの上昇分が2.6兆円あったことを考えれば、税収全体の増加額がだいたい合う計算になる。ということは、企業所得税収はほぼ変わらなかったということになる。
消費税というのは、まんべんなく10%かかるため、累進ではない分、どうしても低所得者のほうの負担が大きい。高額所得者や事業者にとって有利な税金と言ってもいいだろう。また、雇用調整助成金にしても、100%負担となった企業側にとっては何の問題もないが、上限金額があるため、雇用調整させられている人にとってはとんでもない話だ。
けっきょく、飲食や観光業などの、コロナ規制をもろにかぶってしまった中小零細やそこで働く人たちが犠牲になって、大手は収益大幅アップでウハウハということか。
こうなると、国の給付金や雇用調整助成金などの経済支援策などがうまくいったなどという、国の高笑いが聞こえてきそうだが、そんなに単純なことでもなさそうだ。
マクロとしての税収は、けっきょく大企業がいかに儲かるかに焦点を絞るほうがいいということがより明白になったということか。残念ながら、中小(特に小規模)の全体税収のウエートが低すぎるのだろう。
今回のコロナ禍では、飲食業が集中的に押さえつけられた。当初はパチンコ店やら言われたものだが、現在はほぼ飲食に絞られている。
飲食店は、そこら中にある感覚なので、就業人数や売上もそこそこあるようなイメージがあるのだが、実際はどうなのだろう。東京は、世界的に見ても飲食業が多い都市であるのは間違いなさそうだが、東京都の出しているデータで、「経済活動別(産業別)GDP構成費(名目)の比較」というのがある。そのデータを見ると「宿泊・飲食サービス」は、全体の2.2%しかない。しかも飲食関連は小規模事業者(または個人)が多く、黒字幅も大きくない。必然的に総税金額も小さい。これを見る限り、国が力を入れたいと思うのは、製造、卸売・小売、不動産などになるのも理解できる。
だから、税収を国の活性化の大きな指標と考えれば、「宿泊・飲食サービス」については、国はもはや興味がないのかもしれない。
宿泊・飲食サービスだけではなく、もはや需要(経済効果)は、国内ではなく、中国を中心とした、人口増加国なのだろう。
これだけ、飲食やエンターテイメント業界が抑え込まれ、舞台やイベント関連のアーティスト、スタッフも仕事がなく、自殺者も増加しているというのに、企業も国も儲かっている。
もはや「おかしい」というレベルではなくなっている。「経済に最もダメージが少ない産業」ばかりがいじめられる状況が国の政策なのかと思いたくなる。
国の豊かさや一人ひとりの幸福度というのは、大企業ばかりが儲かることでは決してないだろう。もちろん、納税額で企業価値が決まるはずもない。しかも、企業の内部留保の金額は膨大になり、2020年10月時のものだが、企業の内部留保(利益余剰金)8年連続増(前年度比2.6%増の475兆161億円)となっているそうだ。よく、日本人は貯金好きだなどと揶揄する人も多いが、企業の貯金好きはけたはずれだ。
コロナは、国策のかたちすらゆがめてしまったのだろうか。