Pathos
Contents & Marketing
2021.07
行動経済学が注目されているとはいえ、B2Bビジネスの現場、セールスの場面においては、どのように活用すればいいのだろうか。
「プロスペクト理論」「サンクコスト」「おとり効果」「現在志向バイアス効果」など仕掛けてみても、組織の意思決定者は一人ではないため、人間関係上のあつれきとなって、それが逆効果になってしまうことすらあるだろう。
マーケティング理論のなかでは、原則的に、「個人や組織は、少しでも多くの利益を得るために、誰もが同じように合理的な意思決定をする」ことが前提とされている。
いまはやりのマーケティング・オートメーションでもそうだ。アクセスやレスポンスによってスコア化し、マーケティング施策をアルゴリズムで決めていくのだから、まさに合理性の塊だ。
B2Cでは、衝動買いしたり、なぜか買ってしまったりすることはしょっちゅうだが、B2Bではどうか。実際には、B2C以上に衝動買いや非論理的な購入をいやというほど行っているはず。
行動経済学にある内容から考えた場合、我々が普段からB2Bビジネスのなかで直面する事象を思い出してみると、やや乱暴かもしれないが、次の3点は間違いなく言えるのではないか。
これらを行動経済学のフレーズで見てみると、どうなるのだろう。
優れたビジネスマンは、都度、降りかかった課題のたびに適切な意思決定を行っていると思えるが、案外そうでもなかったりする。むしろ、優秀な人ほど、自分の元の考えを変えたくない、維持したい傾向があるために、その考えに有利な情報ばかり探してしまったり、自分の考えとは違う情報やソリューションは排除したりする「確証バイアス」「一貫性の法則」などによって、なかなか意見を変えることができない。
アスリートゴルファーを自負する人など、これの際たるものだろう。自分の理論の正しさを探すことばかりやっている。(これは仕事ではないか)
「ヒューリスティクス(heuristics:発見的手法)」という言葉があるという。経験則や先入観から、なるべく素早く、効率的に答えを導こうとする思考法ということらしいが、あくまでも過去の経験や記憶に基づいた判断であり、論理的な思考というわけではない。これは、確かにB2CというよりもB2B的な思考かもしれない。とにかく素早い意思決定をしたがる(そのほうができるビジネスマンとされる)。もともと持っている経験則や先入観が、その人のポジションや権限によって、さらにバイアスがかかるわけだから、相当にはびこっている意思決定の手段だろう。
その意思決定のプロセスは、「ハロー効果」によって、さらに、「目立つ特徴」に引きずられ、それだけで評価がポジティブ(ネガティブ)に振れてしまう。「○○出身のあいつが言うのだから間違いない」「さすがMBAホルダーの○○だ」ということだろう。
また、組織においては、売上拡大、利益拡大のために、重要な戦略や活動方針を定めてはいるものの、そこで働く大半の人は、わかってはいるものの、目の前の問題に常に振り回されている。「部長からOKが出ない」「顧客からの理不尽なクレームがくる」といった、すぐに解決しなければならない問題を毎日いくつも抱えながら仕事している。そうしたなかでは、長期目標に向かった合理的活動などほとんど関係ない、目の前の「痛み」をいかに解決するかに翻弄される。しかも忙しい、できる人ほどそうなる。
元来人は、「得をすること」よりも「損をすること」に敏感に反応してしまう「損失回避性」「保有効果」があるという。誰でも目の前に「問題」が勃発すれば回避したいと願う。
ビジネスに置き換えれば、できる限りリスクヘッジをして、損をすることがないようにしたい、自分が持っているもの(評価や現在得ている数字的なもの)を落としたくない、手放したくない、ということなのだろう。
そしてとにかく「簡単な表現のもの」を好む。それだけで、説得力があって、知的に感じるのだろう。ソリューションのキーワードや問題解決のためのドキュメントなどもそうだ。いまで言えば、さしずめ「DX」か。
顧客のキーマンや上層部の意思決定の判断基準を正確に把握するのは本当に難しいことだ。まず、そもそも基準があいまいということがある。相手が上位役職であればあるほど、客観的で絶対的な基準ではなく、もともと自分の持っている基準から、どう変化したのかを持っているものだ。「参照点依存症」というらしいが、まずその基準を理解する必要があるのだろう。
また、状況によっては、最初に得た情報が基準になってしまう「アンカリング効果」や、先に得た情報によってあとの意思決定に影響を与える「プライミング効果」もあるというから、本当に、その場その場で、意思決定の基準が異なってくるということなのだろう。
こう考えれば、行動経済学はB2Bでこそ生きる経済学ではないかとも思えてくる。具体的なフレームワークとして確立されるのも遠くないかもしれない。