Pathos
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2021.11
コロナ禍は、仕事の仕方の変化だけではなく、仕事への向き合い方、そして将来に対する「自分自身のあり方」についても考えさせられたし、大きな変化があった。内閣府の調査を見ても、「職業選択・希望の変化」について「まだ具体的ではないが将来の仕事・収入について考えるようになった」と答えた人は多い。仕事のやり方、バリューチェーンのプロセスが変わり、これからの社会のあり方に、自分が対応できるのだろうか、これからはどのように自分を作り上げていけばいいのかと、私も含め多くの人が感じたと思う。
自分をどう作り、市場に対して価値のあるものとして訴求していけばいいのか、つまり、今風の言葉で言う「セルフブランディング」をどう組み立てていけばいいのかについても、大きな転換となった人も多いのではないか。
セルフブランディングといえば、巷言われている定義としては、自分自身のイメージ(ブランディング)を、戦略的に、いかに自分の望むイメージに近づけていくかということだろう。
これまでのセルフブランディングの方法としては、まず、自分が得意なことは何か、他人に対する差別化できることは何か、いわゆる強みは何かを定義する。人とのコミュニケーションが得意、プレゼンテーションが得意、将来的には、人前で話す講師を目指している人であれば、「人にわかりやすく伝える技術を持ち、コミュニケーション力で、共感を得ることが得意」「若手社員の教育に関しては定評があり、受講者の気持ちを理解することができる人気講師」などといったように自分自身を定義するかもしれない。
そして、人気講師といっても、「常に笑いがとれる」「人を感動させる」といった、どのようなイメージを持つ講師なのかを決める(キャラ設定)。「大勢の前に颯爽とにこやかな笑顔とともに登場し、拍手で迎えられる」あるいは「少人数に寄り添い、一人ひとりを大切にする」ようなイメージだろうか。
そして、今度はそのキャラをどう発信するかだ。その定義した自分をどのように、表現し、周囲に発信していくことになるのだろう。「颯爽と登場するシーンを撮影した動画を配信する」かもしれないし、「小さな講演会を地道に開催続ける」のかもしれない。
様々な方法やプロセスがあるとは思うが、多かれ少なかれ、「強みの定義」「キャラづくり」「告知手段の決定」というプロセスを経るだろう。
こうした、いわゆるマーケティング的なアプローチは果たしてこれからも有効なのだろうか。
2008年に出版された、スティーブン・MR・コヴィーの「スピード・オブ・トラスト」という書籍がある。「7つの習慣」で有名なコヴィーの長男が著したこの本は、社会においては「信頼」が重要であり、信頼がないばかりにコストもかかり、スピードも遅くなってしまう。何かを成功させようと思えば、まずは信頼が必要となる。信頼と一言で言っても、まずは自分自身の信頼性の問題から始まり、人間関係における信頼、組織における信頼、社会における信頼と順を追って信頼を築いていく必要があると説いている。
このなかで、「信頼性の四つの核」と名付けられたものがある。信頼に足る人物になるには、「四つの核」が必要だというわけだ。その四つとは、「誠実さ」「意図」「力量」「結果」だ。
誠実さというのは、正直さや高潔なことを意味することが多いが、裏表がなく、有言実行(言っていることとやっていることが同じ)であることが、大事なことだ。人としての素養の部分であると言える。また、自分の価値観や信念に従って行動する勇気を持つこと、価値観や考えと行動が常に一致している(一貫性がある)ことも誠実さに含まれるだろう。
人としての素晴らしい素養があっても、行動の背景となる意図・動機に問題があると信頼にはいきつかない。また、自分だけの利益のためだけではなく、他者への貢献する動機があることも信頼につながる意図だろう。仕事に対する目的とは何かということとも言える。
書籍では「力量」とあるが、いわゆる能力のことだ。仕事を一緒にやるうえでその人を信頼するのは、その人が能力を持っているからにほかならない。アウトプットのための才能、態度、スキル、知識、結果を出す手段を持っていない人を信頼することはできない。
また、仕事に価値を生み出すための豊富な専門的な知識、優れた成果を出すために、持つ知識を生かすスキル、周囲と協力し、より大きな成果を生み出す能力も、この力量に含まれる。さらに、どのような環境の変化が起きても、適応し対応できることも、現在求められる能力のひとつだ、
そして、知識やスキルを磨き続ける努力を怠らないことも重要なポイントだ。
能力というのは、結果を出すための手段であることを考えれば、その人が出してきた、過去の実績、結果が能力のエビデンスということになる。十分な実績を上げてきた人ならば、それだけで信頼に値すると感じることもよくある。
堅苦しいことを言っているようだが、あなたが、経営者、あるいはある事業の責任者で、誰かあなたの右腕となるような主要メンバーを採用しなければならないとしよう。
そのとき、どのような人物を選ぶだろうか。人によって順番の差はあるかもしれないが、この4つの点について考えるはずだ。
まず、その人物が「どのようなビジネスに関する能力を持っているか」を考えるだろう。事業を引っ張っていくための様々な知識やネットワーク、そして、判断力や実行力などのスキル、事業のレベルや状況によって求められる能力は変わるだろうが、これらを総合した「能力」を備えているか、という点を判断するだろう。
次に、その能力のエビデンスという意味も含めて、これまでどのような結果を出してきたのかも気になるポイントだろう。出してきた結果は裏切らないものだ。その人の力で何を実現してきたのか、何を結果として出してきたのかは重要な問題だ。
では、能力も十分、結果も出してきた。これで十分かといえばそうではないだろう。その人物そのものがもっと問題だろう。
人物そのものについては、2つの側面がある。ひとつはその人物の言動が一致しているか、言うことに一貫性があるのかどうかという、人物の根幹にかかわる部分だ。どれだけ能力があろうが、「約束を守らない」「言うことがころころ変わる」「言葉と行動が伴わない」人では、一緒にやろうと思わないだろう。
そしてもうひとつ、その人物がビジネス、事業をやるにあたって、どのような「思い」「動機」「ビジョン」を持っているのかどうかという点だ。その人の持つ仕事へのミッションと言っていいかもしれない。
これも当然のことだろう。事業への取り組みの動機が自分だけの思惑でのことなら、それは「ほかでやってくれ」ということになるはずだ。
自分自身のブランディングとは、市場価値を作り上げていくこととも言える。
これまでセルフブランディングと言えば、どちらかといえばマーケティング的な要素が主な考え方だった。ブログサイトなどの自分のWebサイトを飾り、SNSの活用、最近では動画の活用をいかに行うかというポイントばかりがもてはやされてきた。「フォロアー〇人」というのはその象徴だろう。
しかし、「信頼性の四つの核」で紹介したように、市場価値は、その人そのものの価値だ。
となれば、本質的に自分の市場価値を高めようと考えるならば、これまでよく言われてきたセルフブランディングの高め方よりは、遠回りかもしれないが、自分の誠実さ、意図、力量、結果を磨き上げるしかないのではないか。
世界中で起こったコロナ禍は、誰にでも大きな環境変化が突然起こりうるということを教えてくれた。結局、どのような環境や状況の変化が起きたとしても、本質的に優れた人は、優れた結果を出すことも明確になった。
その本質とは、「四つの核」に裏打ちされた「信頼性」と言えるのではないか。むしろ、変化が大きければ大きいほど、このような人の「信頼性」が求められるのだろう。
これからのセルフブランディングを考えている人は、ぜひこの「信頼性をつくる四つの核」について考えてみてほしい。